2022年 1月 4日

  • 『包括遺贈』とその注意点等!

    2022.01.04

    国税庁のHPには、『遺言書の内容と異なる遺産の分割と贈与税』と題する質疑応答事例が公表されています。
    それによると、「被相続人が、全財産を三男に与える包括遺贈の遺言書があるが、その遺産を妻と三男が1/2ずつ取得する分割協議を相続人全員で行った場合には、(仮に裁判所で遺贈の放棄の手続がされていなくても)包括受遺者が包括遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割協議が行われたとみて、贈与税の課税は生じない」としています。

    ◆「包括遺贈」の場合の「遺贈の放棄」・・・!

    『包括遺贈』とは、「全財産を…」とか「遺産のうち1/2を…」のように、遺産を指定せずに行う遺贈です。民法では、「包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する」と規定されていて、そのため、被相続人の負債も承継することになるため、「遺贈の放棄」に関しても、包括遺贈を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄と同じ手続きをしなければならないと解されています。(逆に、特定の財産を遺贈する「特定遺贈」の受遺者は、遺言者の死亡後はいつでも放棄でき、遺贈を受けたくないという意思表示だけで良いとされています。)
    従って、この手続を経ずして遺言と異なる分割協議をした場合は、「(期間経過後は)いったん受遺者に帰属した財産を、分割協議で異なる者に贈与したことになるのではないか」という疑義が生じるところですが、国税庁からは現実的な回答がなされているわけです。(←受遺者が全て相続人のケース)
    なお、相続人以外の者への包括遺贈、というのもあり得ますが、一部放棄や共同相続人間での分割協議というところでは、難しい問題が残ります。

    ◆「包括遺贈」の遺言書を書く・・・!

    「包括遺贈」の遺言書を書く場合は、まず簡潔に書くことができるというメリットのほかに、特定の財産を指定しないため、遺言書作成後の財産内容の変更にも影響を受けにくく、また、受遺者の中で(あるいは相続人と)相続時の状況に応じて分割協議することができる点が挙げられます。
    その際の注意点等を見てみましょう。

    (1) 包括遺贈の場合も、やはり遺言執行者の指定(遺言書上に記載)は必須でしょう。

    (2) 法定相続人に対しては「相続させる」と「遺贈する」とどちらでも書くことができますが、法定相続人以外に対しては「遺贈する」としか書けません。(一般的に、法定相続人には「相続させる」と書く方が、移転登記手続、農地・借地や借家権の取得の際メリットがあります。)

    (3) 遺贈の放棄が法律上、あるいは(国税庁HPで言うように)事実上行われて、受遺者以外の相続人が分割協議で財産を取得する方法のほかに、遺言を受遺者が承認した上で、遺留分侵害額請求に基づいて受遺者以外の相続人が財産を取得することも可能でしょう。なお、遺留分で取得した財産も、相続税の対象となります。(但し、兄弟姉妹やその代襲相続人には遺留分はありません。)

  • 不動産の法人化アプローチ!?

    2022.01.04

    不動産管理(転貸・保有)会社を設立して、生前対策として行う不動産オーナーの法人化スキームの中心は、相続税と所得税の節税策となります。
    その際の重要な判断基準は、「多少のコストや手間が増えても、それなりに節税効果が期待できるなら、長期にわたり法人で運営してみたい」とオーナーと事業承継者等が思えるかどうか、にかかってきます。

    ◆「法人化」に向けての現状分析・・・!?

    法人化スキームの節税効果について検証するには、まず現状での税率を確認する必要があります。
    相続税の試算を行う場合、配偶者のいる一次相続と、配偶者がいない二次相続では、税効果を検討する上での税率の考え方が異なります。一次相続で配偶者がどの程度相続するのか。そして、その配偶者の固有の財産を加味して、二次相続での税率はどうなるのか。それらをもとに、法人化の最大のメリットとなる「①オーナーの相続財産積上げ抑制効果(相続税)」を検証します。法人化によって、移転できた不動産所得の金額は、それ以降、相続財産の積上げを抑制できるため、相続税の税率分だけ効果が毎年期待できるのです。
    また、第二のメリットである「②法人と個人に係る税率の格差」も検討します。不動産オーナーの所得税の課税所得金額(修繕費の額に注意して正常ベースで…)が、例えば900万円を超える水準だと、所得税33%、住民税10%、事業税5%の計48%の税率が適用されています。(正確には復興税をプラスし、事業税の税効果を減算…)
    これが、法人化によって役員給与等で分散支給した上で、法人に残った利益に対し法人税率(地方税含)は約23%(800万円超部分は約34%)で、役員給与も考慮して効果を検証します。

    ◆ メリットはある。でもデメリットに注意!?

    これ以外のメリットにも魅力はありますが、法人化を決断する際には、デメリットの方に注意が必要です。特に、【管理委託方式】だと不動産収入のせいぜい10%が管理料として法人に移せるだけで、【一括転貸方式】でも不動産収入のせいぜい15~20%の所得の移転だけが可能だと言われています。本格的には【所有方式】を目指しますが、法人化によって全てを複式簿記で処理し、(株式所有、役員、譲渡価額、届出など)複雑化する仕組みの中で税理士依頼は必須です。
    なお、建物を法人に譲渡する際の消費税(簡易課税を選択していれば第4種)や移転コストが高額になるケースがあります。また、一時的には相続税対策上不利になる(簿価・時価譲渡でオーナーは不動産の所有時より財産が増える)ので、効果が出るまでしばらく時間(年数)が必要です。

  • 令和4年度税制改正大綱 ~個人関連~

    2022.01.04

    12月10日に与党の「令和4年度税制改正大綱」が公表されました。一部報道で「相続税・贈与税の一体化」や「金融所得課税の見直し」が行われる、といった噂もありましたが、今回は見送られたようです。今号では、「個人」に影響のある税制で主要なものを確認しておきましょう。

    ◆ “個人関係課税(所得税、住民税、贈与税等)”・・・!

    (1)住宅ローン控除の控除率を縮小し期間は延長
     会計検査院の報告でも逆ザヤが問題視されていたことから、令和4年以降の控除率は0.7%(現行1%)に引き下げられます。ただし、住宅の省エネ等の環境性能や新築・中古等の別により控除限度額(2,000~5,000万円)と控除期間(10年、13年)を分けて適用することになります。更に、適用対象者の所得要件が2,000万円(現行は3,000万円)以下に引き下げられます。また、適用対象となる中古住宅の要件で築年数要件が廃止され、新耐震基準に適合している住宅(昭和57年以降の家屋は適合しているとみなす)に限定されます。また、令和5年以降、住宅ローン控除の適用にあたり必要となる年末残高証明書の提出が不要となります。
    (2)上場株式等の配当所得等の課税方式を統一
     上場株式等の配当所得等に係る課税方式については、現行では所得税と個人住民税が異なる課税方式を選択することができます。しかし、令和6年度以降の個人住民税(令和5年分の所得税確定申告時)からは、所得税と個人住民税の課税方式を一致させなければならなくなります。つまり、所得税を総合課税、個人住民税を申告不要(源泉徴収分で終了)とする選択ができなくなります。
    (3)住宅取得等資金の非課税贈与、縮小して延長
     直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置は、令和3年までとされていましたが、契約締結時期にかかわらず、省エネ等住宅は1,000万円まで、その他住宅は500万円までとされて、2年延長となります。また、適用対象となる中古住宅の要件で築年数要件が廃止され、新耐震基準に適合している住宅(昭和57年以降の家屋は適合しているとみなす)に限定されます。なお、受贈者の年齢要件も見直され、「20歳以上」が「18歳以上」になります。
    (4)財産債務調書制度等の見直し
     現行では、2,000万円超の所得(退職所得除く)を有し、3億円以上の財産か1億円以上の有価証券等を有する者が、財産債務調書を提出する義務があります。そこに、令和5年分以降は、12月末日において10億円以上の財産を有する者も提出義務が課されます。ただし、提出期限が翌年6月30日(現行は翌年3月15日)とされます。(国外財産調書も同様…)
    (5)国民健康保険税
     国民健康保険税の基礎課税額(医療分)の限度額が65万円(現行63万円)に引上げられ、後期高齢者支援金等課税額の限度額が20万円(現行19万円)に引上げられます。
    (6)死亡時の通知
     死亡した者の住所地の市町村長は、死亡した者が有していた土地又は家屋に係る固定資産課税台帳の登録事項等を、税務署に通知しなければならないとされます。
    (7)所得税の納税地異動の手続簡略化
     令和5年以降、異動の届出書の提出は不要に…。

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