2025.08.08
建物や土地が共有名義で譲渡される場合の税務上の諸問題について、第二弾をお送りします。
◆「空き家譲渡」共有の場合の譲渡対価は・・・?
前号では、「建物共有・土地単独」での「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例(空き家特例)」の適用に触れましたが、これは「その他の要件」を満たすことが前提でした。
その中でも、共有不動産に特有の留意点があります。
相続によって空き家となった建物が、昭和56年5月31日以前の建築で、区分所有権建物でなく、相続開始から3年を経過する年の12月31日までに、譲渡対価1億円以下で譲渡されることが要件とされます。
共有者がいる場合、譲渡対価は原則として共有全体で1億円以下かどうかで判定されます。
◆「居住用買換え」「低未利用土地」の特例では・・・?
一方、「特定の居住用財産の買換え特例」や「低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除」では、譲渡対価の額の判定基準が異なります。
これらの制度では、譲渡対価は共有者ごとに判定可能とされます。
たとえば、買換え特例は1億円以下、低未利用土地等は500万円以下(一定の場合は800万円以下)が要件とされ、いずれも共有者の持分に応じた譲渡対価で判定されます。
このように、共有不動産の譲渡では、制度ごとに譲渡対価の判定単位が異なるため注意が必要です。
◆「建物等を共有にしてから譲渡」で特例は・・・?
居住用不動産の値上りで、「単独所有では3,000万円特別控除が1人分しか使えないため、配偶者や子に持分を贈与して特例を2人分適用したい」といった相談を受けることがあります。
このような場合、夫婦間の「おしどり贈与」や親子間の「相続時精算課税制度」を活用し、単独所有を共有にすることは制度上可能です。
というのも、「居住用財産の特例を使うために居住する」のは問題ですが、既に居住している者が将来の特例適用を見据えて家屋等の贈与を受けることは、租税回避とはみなされないからです。
もっとも、おしどり贈与では「贈与後も居住の見込みであること」が要件で、贈与時に具体的な売却意思があると適用が難しくなります。
また、子への贈与も、売却準備に入った段階では贈与税評価額に疑義が生じるおそれがあります。
従って、このような共有化は、売却が具体化する前に「将来の譲渡に備える目的」で行うべきでしょう。
◆「未分割のまま」換価(売却)した場合・・・?
未分割の相続財産を分割協議前に売却する場合、換価代金の取得割合を事前に定めていない限り、法定相続分に応じて各相続人が換価代金を取得したものとされます。
そのため、譲渡所得の申告もそれに従って行う必要があります。
ただし、所得税の申告期限までに換価代金の分割が行われ、共同相続人全員の合意により取得割合が定められていれば、その割合に基づく申告も認められます。
なお、換価の便宜や実務処理の都合上、相続登記を共同相続人の1人の名義で行うことも、分割協議書等でその旨が明記すれば可能です。
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2025.08.08
相続税の各種特例の中でも、適用の有無によって納税額に大きな影響を及ぼすのが『小規模宅地等の特例』です。
中でも、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等について、330平米までの部分について80%の評価減が認められる『特定居住用宅地等』は、その代表格といえます。
そして、同居していなかった相続人等であっても、一定の要件を満たせば適用可能となる場合があり、それが業界用語として「家なき子」特例と呼ばれています。
◆特例の適用対象となる「居宅の範囲」は・・・?
対象となるのは、被相続人の自宅建物の敷地であり、庭や家庭菜園、隣接する自宅駐車場など、一体として利用していた範囲まで(地番の筆には関係なく)含めることができます。
ただし、区分所有建物の場合には、原則として登記単位で別棟とみなされる点に注意が必要です。
また、被相続人が生前に老人ホーム等へ入所していた場合には、相続開始の直前に要介護または要支援の認定(申請中でも可)を受けていることが要件とされます。
このとき、施設入所後に生計を別にする親族が旧宅に転居してきた場合などでは、原則として特例の適用は認められなくなってしまいます。
さらに、被相続人が一人暮らしを避けるため別居の親族のもとへ転居し、その後相続が発生した場合には、(事実認定の問題として)生活の本拠を移したとされれば、旧宅敷地に対して特例を適用することはできなくなると考えられます。
◆「家なき子」登場の前提・要件は・・・?
この特例は「被相続人等の生活基盤の維持のために欠くことのできない」居宅の敷地に適用されるもので、被相続人に配偶者や同居親族がいる場合には、それ以外の親族が相続しても適用されません。
一方で、配偶者も同居親族もいない場合には、相続後にその不動産を活用する可能性の高い相続人として、一定の要件を満たすいわゆる「家なき子」が、特例の適用対象となります。
つまり―――
(1) 被相続人に配偶者がいない
(2) 相続開始の直前に対象家屋に居住していた他の相続人がいない
(3) 相続開始前3年以内に、取得者自身・その配偶者・3親等内親族、あるいは特別の関係のある法人(株式50%超を保有等)が所有する家屋(対象家屋は除く)に居住したことがない
(4) 自身が現在居住している家屋を過去に所有したことがない
(5) 対象となる宅地等を相続税の申告期限まで所有している
―――ことが要件とされます。
◆要件の精査と留意点・・・!?
まず、取得者は法定相続人(代襲相続人や養子)のほか、遺言で遺贈を受けた受遺者(包括受遺者、特定受遺者)が含まれます。
したがって、孫なども対象となる可能性があり、「家なき子」という呼称は、むしろ「家なき親族」と表現すべきかもしれません。(2割加算の対象にはなりますが…)
また、(3)や(4)で問題となるのは「家屋」であることに注意が必要で、逆に(5)の所有継続要件では「宅地等」の所有が求められ、建物部分は申告期限前に取壊していても差し支えありません。
なお、(5)における所有要件に関しては、相続税の申告期限前に売却活動を開始することは可能ですが、所有権の移転は申告期限後である必要があります。
売買契約の締結時点を所有権移転の時期とみる見解もありますが、契約書において所有権移転の時期を明記(申告期限後となるよう設定)し、残代金支払いと引換えに所有権を移転すれば、要件を満たすと解される余地はあります。
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