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2020.03.23
「老人ホーム入居中の母と生計を一にしていたと主張した納税者が、相続税の特例を適用するにあたり、生計を一にしているとは認められない」とされた、国税不服審判所の非公開裁決事例が国税速報(一般財団法人大蔵財務協会)に掲載されました。
所得税にも相続税にも、「生計を一にする親族」については特別な取扱いを認める規定が存在します。例えば、所得税の社会保険料控除や医療費控除など、自己と生計を一にする親族等のために支払ったものも、自己の費用と同様に扱われます。また相続税でも、被相続人と生計を一にする親族が居住し、あるいは事業に使っていた宅地等に対して、小規模宅地等の特例を適用する場合など、生計を一にする親族であったか否かによって、特例の適用状況が大きく異なります。
◆ “日常生活の資を共通にする”かどうか・・・!
ただ、法令において「生計を一にする」の要件規定はなく、あるのは通達だけで、例えば国税通則法では「日常生活の資を共通にしていることをいい、納税者がその親族と起居をともにしていない場合においても、常に生活費、学資金、療養費等を支出して扶養しているときが含まれる」としています。
「生計を一にする」かどうかが問われると、「身の回りの面倒は私がみていた」「生活費の一部は私も負担していた」と言って、別居の立場でも「生計を一にする」親族であると主張するケースがあります。
しかし、相続税において、特に親が老人ホームなどに入居していて、子とは別居している中での「生計を一にする」という主張に対しては、経済的な側面を重視して「日常生活の資を共通にしている」ことを、厳格に求める傾向にあります。
もちろん、子に、あるいは親に収入や財産がなく、子が、あるいは親が仕送りに頼った生活が現実に行われていれば、「生計を一にする」親族で疑いはないわけですが、通常問題となるケースでは、親は資産家で、子もそこそこに収入があって、生活費は基本別々にという状況の中で、相続税の特例を適用するにあたって、前述のように「生計を一にする」親族を拡大解釈するケースです。
◆ 国税不服審判所の厳しい判断・・・!
平成31年4月8日の国税不服審判所の審判を要約すると、「①被相続人(親)にとって、日常の生活に係る費用の主要な部分は老人ホームに係る費用で、その老人ホームの入居金、施設利用費及び管理共益費、月額利用料のほか、実費負担額の全てを被相続人が負担していた。②子の日常生活に係る費用の主要な部分を被相続人が負担していた事実もない。③通達にある「日常生活の資を共通にしている」は、「日常の生活に係る費用の主要な部分を共通にしている」と言い換えることができる(と審判所は判断した)。④子が被相続人の食費や介護用品以外の衣類等の身の回りのものの費用を負担していたとしても、それは、被相続人にとっての日常生活に係る費用の主要な部分ではないから、それをもって生計を一にするとは言えない。」と判断したようです。
また、平成20年6月の裁決事例でも、入院先で死亡した被相続人の居宅を相続する際に、生計を一にする親族であると主張して争われた事例では、入院中の生活に係る入出金と居宅の管理を行っていたとしても、「入院費のほぼすべてを被相続人が負担し、子は管理のみであった」ため、生計を一にする親族とは認められないとされた事例もあります。(生計一の判断は難しい…)